症状には幅があり、本人がまったく気にしていない状態から、ひどい痒みを訴えている場合もあります。
見た目の派手さと、ひどい痒みから『アレルギー』と間違えている人が多いです。
皮疹は基本的にどこでも見られますが、おなかやお股の内側などに多く認めます。
ペットシーツの上で寝るなど、不衛生にしている仔犬でも見かけます。
定期的なシャンプーが予防に効果的ですので、詳しくは『正しいシャンプーの仕方』も合わせて見てくださいね。
膿皮症は「ブツブツ」や「フケが多い」など、上や左のの写真のような病変を特徴とします。痒みは、軽度~重度まではさまざまです。
写真は「表皮小環」という膿皮症の典型的な病変です。円形に近い形で、毛が抜けていて、全体的に黒く変色し、円形の周りに沿ってフケが見られています。
これは、皮膚が自分で何とか治そうとしている状態です。ですから、中心部分からは毛が生えています。しかし、このままでは自力では治りません(泣)。周りにドンドンと拡大していくのです!
ひどい時にはこれがいくつもくっついて、全体的に毛が薄くなってしまっているケースもあります。
そうなる前に治療を開始しましょう!
今回は、実際に病院へ来た時の診察の内容をお伝えします。
まず、この病変の周囲のフケの部分の薄皮をめくります。そして、その下の皮膚にスライドガラスを押し当てて、「押捺塗抹標本」を作成します。
つまり、皮膚炎が進行している部分(現場)で何が起こっているのかを顕微鏡で見ていきます!顕微鏡を覗いてみると・・・。 (下の写真へつづく)
「表皮小環」という病変
類円形で周囲にフケを伴っているのが見えます。
この病変では、色素沈着がみられているもの、中心部は略治し発毛を認められます。
もちろん、このままでは完治に至ることは出来ません。
「好中球」と呼ばれる細胞が見られました!
これは、通常皮膚表面に見ることが無い細胞で、細菌を食べて殺菌する役割をしている細胞です。
そして、小さな粒状の「球菌」も認められました。
赤丸の部分には、その菌を取り込んでいる好中球も認められました。
つまり、これは上の写真の肉眼所見の病変部において、菌がおり、その菌をやっつけるために好中球が集まり、
菌と戦っているという事がわかりました!!
この検査によって、この病変は『細菌感染に伴う炎症反応』という事が証明されました (^O^)/
上の写真の病変部より作成した押捺塗抹標本を顕微鏡で覗いた写真
赤い丸の中に球菌を取り込む、好中球を確認できました。
これも、膿皮症です。
上の写真と同じく、表皮小環ですが、周囲の炎症反応(菌と好中球との戦い)が激しく、赤みが強い状態です。
この場合は、かゆみも強いケースが多いです。
また、周囲の表皮小環と結合していく様子もこれでお分かりいただけると思います。
こうして、病変は拡がっていってしまいます。
これも、周囲の赤みのある部分をスライドガラスで押捺塗抹標本を作製して顕微鏡を見てみると・・・。
表皮小環ですが、周囲の炎症がひどいケース。
また、上と真ん中と下の3つの小環が重なり拡大していく、途中の経過もみてお分かり頂けると思います。
やはり、多くの好中球が見られました。
薄いピンクに染まっているドーナツみたいに見えるものは「赤血球」です。
つまり、病変部は出血を伴っている(血がにじんでいる)ということを裏付けていました。
そして、赤丸の部分では先ほどと同じく球菌を取り込んでいる好中球が認められました。
この病変部もやはり、「細菌感染症に伴う炎症反応」という事を示していました。
赤丸の中に球菌と好中球を確認できます。 薄いピンクの丸い細胞はすべて赤血球です。
写真は足を常に舐めているワンちゃんの足の裏の写真です。
ヨダレでテカテカです。
このようなケースは意外に多く、当院で診察させていただくまでは「アトピー」と診断を受けて、ステロイド治療を受けているケースがあります。
確かにこのような皮膚病変では、アトピーであることが多いのですが、足の裏は皮膚と皮膚の重なる部分であり湿りやすい環境にあるので、このケースのように、細菌感染性の肢端舐性皮膚炎である場合もあります。
ちなみにこの子は、玄関においてある、「この子の足ふき用」の雑巾で毎日足を拭いてから室内に入っていましたが、その雑巾を毎日洗濯はしていなかったんです。。。つまり、雑巾で繁殖した菌を足に刷り込んでいたことが原因であると判断し、止めていただいて、抗生剤をしっかりと投与したところ、劇的に改善を認めました。
その後は、足の裏を定期的に膿皮症予防用のシャンプーで洗ってもらい、玄関の雑巾も毎日洗濯器で洗っているおかげで、再発は認めませんでした。 みなさんも、玄関に、犬用の雑巾を置いていませんか? もしありましたら、毎日洗濯かごにいれましょうね~(^_^)/
フラッシュで光ってしまっています(泣)
ので、赤みが見えにくいですが、
舐めすぎで、湿っているのはお分かり頂けると思います。
近年増加傾向なのが、「多剤耐性菌による膿皮症」です。 分かりやすく言い直しますと、「薬が効かない膿皮症」です! つまり、使用している抗生剤がまったく効果を出さないという状態です・・・。
たとえるならば、
こっちに向かってくる戦車にミサイルを撃ち込んでもビクともしないのと一緒です!(余計わかりにくいですかね・・・。)
この場合は、右の写真のように原因菌をしっかりと調べて、どの抗生剤に感受性があるかという「細菌培養と薬剤感受性試験」を実施しないといけないのです!!
もちろん、費用はかかりますが、手当たり次第に抗生剤を使うのはより多くの耐性菌を作ることにもつながります。
当院では治りにくい皮膚病で、明らかに細菌感染が考えられるときには、この検査を実施しております。
実際に1年間に10~15件ほどの耐性菌によるものが見つかっております。
原因の多くは抗生剤の短い期間の服用の繰り返しですね。
ほとんどの膿皮症では最低でも3週間の抗生剤による内服治療が重要です。
また、アトピー犬ではステロイドを使用することが多く、耐性菌もできやすいです。
さらに、甲状腺機能低下症というホルモンバランスの乱れを伴う病気では皮膚病が治りにくいため、耐性菌により一層悪化しているケースもいくつか経験しております。
そのように、悪化させてしまわないためにも、アトピーや甲状腺機能低下症を背景とした治りにくい皮膚病の時には根気よく出来る限り定期的な獣医師の診察を受けていただきたいと思います。
ご不明な点は、お気軽に聞いてくださいね!
右側の「R」=「薬が効かない」という意味で、 同じく「S」=「薬が効きます」という意味になります。